パン
無性にパンが食べたかった。朝ごはんは白米派だったが、それといまの爆発的なパンに対する執着は関係ない。パンが食べたかったのだ。僕はとりあえずたけしに電話をすることにした。たけしも同じ、白米派だ。
たけしは予想に反してすぐに電話に出た。だから僕もすぐにたけしにパンが食べたいと伝えた。そうするとたけしは寝ぼけた声でこんなことをいった。
「いいか、パンってのは確かに偉大だ。米を愛している人間より、パンを愛している人間のほうが世界的には多いだろう。俺たち二人だけの米に対する愛でさえ計り知れない。でもそんなもの比べ物にならないくらいの愛が渦巻く、そんな世界にお前は迷い込んでしまった、もしくは誘い込まれてしまった。友達としてこれだけは言わせてくれ。危険すぎる、今ならまだ戻って来れる。」
正直僕はたけしに心配されるとは思っていなかったからびっくりした。なんで僕がよりによってたけしに心配される。何しろたけしは僕に、遠回しではあるけれどパンはやめておけ、と言ったんだ。こんな時に言う言葉を、僕は一つしか知らない
「心配してくれてありがとう。でもな、余計なお世話だ」
そう言うとたけしは細く唸った。
「ちなみにたけし、お前は今何が食べたいんだ?」
そう聞くとたけしは急にそれまでの勢いを取り戻しこういった。
「愚問だな、パスタに決まってる。」
ふむ。僕はそこまで聞くと挨拶をして電話を切った。どうやら僕の知らないうちにたけしの身にも何かあったらしい。そして僕についてこれと同じような事を、奴も考えているだろう。
さて、彼の言っていた通り僕はいま非常に危険な状態にある。それは彼に言われなくても僕だってわかっていた。問題は、たとえ僕がいまパンを食べることが出来てもおそらく状況は変わらないだろうということだった。自分がどうしてこんなにもパンを食べたくなっているのか、原因を突き止めなければ解決はない。僕は無意識に携帯を手にとる。わからないことがあれば、まずはネットだ。携帯を開くとツイッターの画面、そこには昨晩見ていた、ツイート。そしてそのツイートは、加工され不自然なほど鮮やかなパンの画像を載せたものだった。なるほど、至極簡単な事だった。